女の情念は、琴の調べ
2013年の秋、私はたまたま広島にいた。
そこでたまたま目的地近くの神社で行われるという琴の演奏会に行くことになった。
全く予定していなかった琴の演奏会というイベントにあまり乗り気ではなかった。
琴、というと日本の伝統芸能であり、女性の楽器とされていることから、おっとりとしたイメージがあり、きっと眠くなるだろうと予想を立てていた。
しかし、五十がらみのおかっぱ頭の、痩せぎすの女性が琴に手をかけた途端、そうした想像は裏切られた。
ロックバンドの演奏かと思うほどのアップテンポ、恐ろしいほどの早弾きによる音の洪水に圧倒された。
髪を振り乱し、取り憑かれたかのような凄まじい演奏に、感動よりも恐怖が勝る。
琴に生涯をかけた女性の情念が無類の演奏技術に乗り、怒涛のように押し寄せる迫力があった。
同行者も、他の来場者も、開いた口が塞がらない様子であった。
帰り際、皆口々に凄いものをみてしまったと話していた。
この経験以降、凄まじいと思える芸術に出会った時、必ず彼女のことを思い出す。